建物と福祉

障害を持った人たちが生き生きと
働ける施設「社会就労センターあおぞら」


南仏をイメージさせる建物の外観。


訪れた小学生たちが、玄関に段差がない、木のドアがやさしいと感想を語ってくれました。


ランチルームと給食いいにおいがただよってきます。


「さをり織り機」と呼ばれる手動の織り機でテーブルセンターなどの作品づくり。


いずれ喫茶室として地域の人たちとの交流が始まります。


中庭はほっと息をつけるスペース、この空間が広がりを感じさせてくれます。

湖西線の小野駅を北へ通過すると、左手の山側にひときわ暖かい色合いの建物を見かけることができます。それが「社会就労センターあおぞら」です。小規模共同作業所「きたおおつ共同作業所」「あしたば共同作業所」「志賀町あおぞら作業所」の3つが統合され、認可を受けた知的障害者授産施設として今年6月1日に開所しました。知的障害者授産施設とは、日常生活に必要なことをトレーニングや学習し、作業工賃を得ることで、障害を持っていても生活ができる力をつけるための施設です。

『あおぞら』の歴史を紐解くと、1980年(昭和55年)母体の社会福祉法人おおつ福祉会の発足に始まり、1994年(平成6年)から「大津市北部・志賀町に認可の障害者作業所をつくる会」の方々が地道で息の長い運動を展開されてきた結果がこの建物に凝縮されています。

7年間の「なんとかこの地に障害者の認可施設をつくってほしい」との願いがかなかったのです。「この施設は、大津市北部、志賀町に障害者のための施設がはじめてできたことにより、障害者福祉の拠点になる、今まで無認可だった施設を認可施設にすることによって、地域にも開かれる、障害者自身にも生きがいづくりの場となる、それがコンセプトです。これからの福祉施設は、地域に開かれた施設でなくてはなりません。そのために土日に地域の人に施設を開放するとかいう方法を近い将来に考えています。 今はまだ、私たち職員も、通所者も施設に慣れるのに一生懸命で、もう少し時間がかかると思いますが……」と施設長の奥田正二さん。

「作業所って地域に埋もれているイメージがあるし、建物の周りもきれいなイメージがない。福祉そのものも暗いイメージが付きまとう。それらを払拭して、できるだけ明るいイメージを植え付けたかったし、建物そのものが主張する、地域へ向けて何かを発信する、そんなプランを試みました」

「すぐ隣の志賀町小野支所と行き来ができるアプローチや、地域の方々に気軽に来ていただきたい喫茶コーナー、ランドマークともいえる『あおぞら』の文字が入ったシンボリックな塔などどれも欠かせない要素です。建物を回廊式にし動線をゆったりしたこと、中庭を広くとって明るい空間をつくり出したことなどは、作業する人たちがちょっとした息抜きや語らいの場として機能するように設計しました」そばで設計への思いを語る松井俊さん(A&C 有限会社地域施設建築研究所所長)。

施設長の奥田正二さん(右)と
設計された松井俊さん。

思い思いのつくられた陶芸作品。
芝生の上でちょっと照れているようです。

現在あおぞらの活動内容は、手工芸、紙すき、つる細工、手織りなどがメインで、思い思いに粘土をこねる陶芸も行われています。「大きな場所で作業できる喜びと、仲間と明るい空間に集える喜び」を大半の通所者が訴えかけます。

建物のハード面と、そこで何ができるのかのソフト面。現在の作業所がどこでも抱える問題として、平均給与が低いことが上げられます。通所者がやり甲斐を持てるような作業を模索しながら、地域の人たちと手を携えての運動がまだ始まったばかりです。これからどのように成長していくのか、皆さんとともに考え、見守っていきたいものです。