建物と文化

白壁と舟板塀……
五個荘町金堂の伝統的建造物群。


そこここにある舟板塀と白壁の蔵屋敷。かつてここを近江商人が行き交ったのです。


以前はトタンがかぶせられていた昔懐かしい茅葺きの家。材料も職人さんの町の手配で出来上がりました。松井工業が施工した「でんけん」の物件。


勝徳寺長屋門の改修平成11年、『でんけん』として一番最初の事業。築300年を越えるといわれ、金堂では一番古い建物。陣屋の裏門を移築した建物で、石垣が暴れ柱も腐っていたのを曵屋工事(写真右のように建物を解体せずに移動させる)で改修工事を行った。


金堂会議所の納屋と蔵の修理工事。元は近江商人の道具蔵で、トイレが老朽化していたことや雨漏りがしていたことによって納屋と蔵の修理工事を行った。美観をそこねていた写真右の外観が修理とともに美しくよみがえった。


外村家の改修工事。平成14年度の補助事業で現在行っている屋根の補修工事と構造の補強工事。近江商人の本宅は上品に造られている。


弘誓寺の太鼓楼の改修。平成11年度の修理事業。屋根の改修と桁から上を改修。屋根瓦は別誂え。本堂は県内では比叡山の根本中堂に次いで大きく、国指定重要文化財。

五個荘町の金堂地区は、近江商人のふるさと。白壁と舟板塀の蔵屋敷、条里制を持った街。歴史的な景観が守られています。

五個荘町の名前は、その昔、山前五個荘と呼んでいた荘園時代からの流れで、平安時代になって五個荘と呼ばれるようになったと言われています。なかでも金堂地区の歴史は古く、奈良時代に寺院が建てられていることからも、古代神崎郡の中心地の一つであったと思われます。

古代神崎郡条里制を遺す水田が広がり、旧外村家をはじめ近江商人を数多く輩出した場所でもあります。意匠をこらした和風建築がひと際目を引く商人屋敷や白壁、土蔵、舟板塀が続く町並み、近江商人が進んで寄進した弘誓寺や大城神社など大規模な社寺建築は、一瞬時が止まったようななつかしい日本の原風景を見る思いがします。

かつて五個荘町を訪れた司馬遼太郎は「たがいに他に対してひかえ目で、しかも瀟洒な建物を建てるあたり、施主、大工をふくめた近江という地の文化の土壌のふかさに感じ入ったものである」と『街道を行く』で記いています。五個荘町金堂はまた、松井工業株式会社の創設者・故松井貞治氏の出生の地でもあります。

『でんけん』と『心かよう街づくり』

歴史的な景観が残る五個荘町の金堂地区は、昭和56年に保存対策調査を開始。平成7年には住民によって「金堂町並み保存会」が結成され、通りの美化運動や愛称募集、農家住宅の調査などを積極的に行ってきました。

そんな成果が実り、平成10年12月25日には、「江戸時代から明治・大正・昭和の初期にかけて近江商人が築き上げた意匠のすぐれた和風建築群、高い美意識を醸し出した町並みが保存されている」ことを理由に、『重要伝統的建造物群保存地区』(以下略して「でんけん」)の選定を受けました。保存・修理・復元は、金堂の景観の要素になっている家屋、土蔵、納屋、門、塀、堂、寺、神社、石祠などや、伝統的建造物群と一体となる環境を保護するための石垣や石積みの排水路、井戸、石標、灯篭、樹木、樹林、庭園樹林なども含まれ、建造物の新築・増築・改築などの場合には、周囲の景観と調和することが条件とされています。「住民の地道な努力が実ったといえます」と中沢金治郎さん。

中沢金治郎さん(左)と山村伸さん。
どちらも金堂の歴史を語る時欠かせない存在です。

『でんけん』はおおむね明治・大正・昭和の初期の景観を保存することが目的。金堂の歴史や、かつての景観を知る生き字引の中沢さんは「この事業は、改造・修理費用の補助が受けられるなどのメリットもありますが、屋根瓦一枚を例にとっても、今のサイズとは違うなど意匠上の細かい規制もあります。でも私たちは、先人たちが遺してくれた建物や景観のある金堂に住んでいることに『誇り』と『責任』をもって、50年100年と長く保存していきたいですね」と中沢さん。

松井工業ではその『でんけん』の施工を積極的に行い、地域の特性に合った『心かよう街づくり』のお手伝いをしています。

●条里制水田/水田を一辺一町(約109メートル)の方格を単位とした地割りで、縦を条、横を里として◯条◯里と表記。奈良時代、国家が人々に土地を支給した班田法に由来するとされています。五個荘町金堂には、神崎郡統一条里が顕著に見られます。

●参考資料
「五個荘町金堂伝統的建造物群保存地区─歴史的町並み保存のために─」五個荘町教育委員会発行「近江商人物語─白壁と蔵屋敷─」五個荘町商工観光課発行
「金堂地区景観保全のための提案」五個荘町発行
「伝統的建造物群保存地区─歴史の町並─」全国伝統的建造物群保存地区協議会発行
「てんびんの里ぶらり散歩マップ──エコ・ミュージアム」近江商人博物館

●取材協力 五個荘町歴史博物館 五個荘町教育委員会